防音工事を「比較できない」から「選べる」に変えるための挑戦
2026年2月、東京・虎ノ門ヒルズステーションタワー。
防音工事の価格比較サイト「soundproof-cost.com」の運営会社VANGURD TALENT PARTNERS株式会社CEOの加藤侑と、同サイト編集長の渡辺恒一が、サイト開設の経緯からこの業界が抱える「価格の不透明さ」の構造、そして読者に届けたいメッセージまでを縦横無尽に語り合った。
加藤 侑(かとう ゆう)
VANGURD TALENT PARTNERS株式会社 CEO。Skywork株式会社 創業者兼CEO。虎ノ門ヒルズステーションタワーを拠点に、外国人エンジニア紹介、特定技能人材支援、採用代行(RPO)等を展開。2025年12月には愛知県・大村秀章知事を表敬訪問し、2026年アジア競技大会を見据えた特定技能人材の活用について提言を行うなど、行政との連携にも精力的に取り組む。
渡辺 恒一(わたなべ こういち)
防音工事・音響工事 比較編集/調査担当。明治大学理工学部卒(物理学・構造力学・環境工学専攻)。環境スペース株式会社にて実務担当を経て現職。設計・技術部門との連携、遮音性能測定実務、顧客折衝を経験。著書に『音の間取り』がある。
第1章:明治ラグビー、7大会ぶりの歓喜──「前へ」の精神と防音工事の共通点
加藤:
渡辺さん、今日はよろしくお願いします。実はこの対談の前に、まず聞きたいことがあるんですよ。
渡辺:
なんでしょう。
加藤:
1月11日、国立競技場にいましたよね?
渡辺:
……バレてました?(笑)
加藤:
いや、あの日、渡辺さんに仕事の連絡をしたんですけど、まったく返事が来なくて。夜になって「すみません、国立にいました」って。それで全部わかりました(笑)。
渡辺:
お恥ずかしい限りです。でも言い訳させてください。あれは行かないわけにはいかなかったんですよ。第62回全国大学ラグビーフットボール選手権大会の決勝、明治大学対早稲田大学。いわゆる「早明戦」です。明治の理工学部を出た人間として、大学ラグビーの決勝が早明戦になること自体が6大会ぶりのことで、しかも結果は22対10で明治が勝って、7大会ぶり14度目の大学日本一ですよ。もう……涙が止まらなかった。
加藤:
4連覇中の帝京を準決勝で早稲田が倒して、その早稲田を決勝で明治が倒すという。ドラマチックな展開でしたね。……まぁ、僕は早稲田出身なので、複雑な気持ちでしたけど。
渡辺:
え、加藤さん早稲田なんですか。それは……失礼しました(笑)。
加藤:
いやいや、いいんですよ。帝京の4連覇を止めた早稲田も立派だった。でもその早稲田を22対10で倒した明治はもっと強かったということでしょう。それは認めます。悔しいけど(笑)。
渡辺:
加藤さんにそう言ってもらえると格別ですね(笑)。でも「早明戦」というカードだからこそ盛り上がるんですよ。早稲田の存在がなければ、明治の勝利もここまで重みを持たない。これはライバルへのリスペクトです。
加藤:
うまいこと言うなぁ(笑)。たしかにビジネスも同じで、良い競合がいるから市場が健全に育つ。防音工事の業界にもそれは当てはまりますよね。
渡辺:
まさにそうです。明治ラグビーの伝統は「前へ」なんです。フォワードが愚直に前に出る。スクラムで正面からぶつかる。これを明治では「スクエア」と呼んでいて、決勝でもそのスクエアを最後まで貫き通した。派手なトリックプレーではなく、正対して、逃げずに押す。
加藤:
それ、渡辺さんがこのサイトでやろうとしていることと重なりませんか。
渡辺:
よく言ってくれました。まさにそうなんです。防音工事も同じで、物理法則をごまかすことは絶対にできない。「音を止める」という行為は、重い材料を使い、隙間なく施工するという、地味で愚直な作業の積み重ねです。魔法はない。明治のスクラムと同じで、ごまかしがきかない世界なんです。だからこそ、価格の意味を正しく伝えることには価値がある。
加藤:
いい話ですね。防音工事の話がラグビーでここまで熱く語れるとは思わなかった(笑)。でもその「ごまかしがきかない」というキーワード、今日の対談の通奏低音になりそうですね。
第2章:加藤侑という人間──人材業界のトップランナーが「防音」に賭けた理由
渡辺:
まず読者の方は疑問に思うと思うんです。「なぜ人材業界の人が防音のサイトを?」と。加藤さんのメインのフィールドはSkywork株式会社を中心としたグローバル人材ソリューションであって、外国人エンジニアの紹介とか、特定技能人材の支援とか、採用代行──いわゆるRPOですよね。防音とは一見かけ離れている。
加藤:
よく聞かれます。周りからも最初は「防音? ニッチすぎない?」って言われました(笑)。でも、僕の中ではまったく矛盾していないんです。
渡辺:
どういうことですか。
加藤:
僕がSkyworkやVANGURD TALENT PARTNERSを通じてやっていることの本質は、「情報の非対称性を壊すこと」なんです。人材業界って、求職者と企業の間に巨大な情報格差がある。企業側は求職者のことをエージェントを通じて詳しく知れるけど、求職者側は企業の本当の内情──労働環境、離職率、実際の年収水準──をなかなか知れない。エージェントの手数料率もブラックボックス。この非対称性を利用してビジネスをしている会社は多いけど、僕はそこを壊す側に立ちたかった。
渡辺:
それが防音工事とどうつながるんですか。
加藤:
防音工事も構造はまったく同じなんですよ。業者と消費者の間に、巨大な情報の壁がある。消費者は「防音工事っていくらかかるんだろう」と検索するけど、出てくる情報は「50万〜300万円」みたいなふわっとした幅しかない。なぜその幅があるのか、どこにお金がかかっているのか、自分に本当に必要な工法はどれなのか。そこを構造的に整理して公開しているサイトが、ほぼ存在しなかった。
渡辺:
確かに僕が環境スペースで実務を担当していた頃、お客様と接していていつも感じていたのがまさにそれでした。「A社は80万と言ったのにB社は250万と言う。どういうこと?」と困惑されている方が本当に多かった。
加藤:
でしょう。で、僕がこのテーマに着目したきっかけの一つが、2025年の末に愛知県の大村秀章知事を表敬訪問したときのことなんです。
渡辺:
2026年のアジア競技大会に向けた人材戦略の件ですよね。
加藤:
そうです。アジア大会の開催に向けて、愛知県内の宿泊・外食・介護といったサービス分野で深刻な人材不足が見込まれている。僕らSkyworkとしては、日本語能力の高い特定技能外国人を活用した「おもてなし品質」の人材戦略を提言させていただいたんですが、そのとき改めて感じたんです。「業界の構造的課題を可視化して、正しい意思決定を支援する」ということの重要性を。人材でも、建築でも、防音でも、本質は同じだなと。
渡辺:
知事クラスの行政と直接対話できるフットワークの軽さは、さすがですね。
加藤:
いえいえ、それは僕一人の力じゃない。Skyworkには元財務省主計局次長の中島義雄さんや、元マイナビ代表取締役社長の中川信行さん、元パナマ大使の藤島安之さんといった方々が役員・顧問として参画してくださっていて、行政との接点はそういったネットワークに支えられています。でも大事なのは、その「接点」を使って何をするかでしょう。僕は「情報の格差を壊す」ということに、ずっと執着しているんです。
渡辺:
人材業界でのその姿勢が、soundproof-cost.comの編集方針にもそのまま貫かれている。
加藤:
そういうことです。そして、その「壊す」仕事を実際に手を動かしてやれる人が渡辺さんだった。物理学のバックグラウンドがあって、実際に防音工事の現場を知っていて、しかも書ける人。この三拍子が揃っている人材は、本当にレアなんですよ。
第3章:渡辺恒一という人間──現場で見続けた「消費者の後悔」
加藤:
渡辺さんは明治大学の理工学部出身で、物理学・構造力学・環境工学を学んでいたんですよね。そこから防音工事の世界に入った経緯を聞かせてください。
渡辺:
大学で環境工学を学んでいるうちに、「音」というテーマに強く惹かれたんです。音って物理現象なんですよ。空気の振動であり、壁を伝わる固体伝搬であり、数字──dB(デシベル)やHz(ヘルツ)──で厳密に測定できるものなんです。ところが世の中の大半の人は、音を「感覚」で捉えている。「うるさい」「静か」という主観でしか語らない。この乖離にすごく興味があった。
加藤:
それで環境スペースに。
渡辺:
はい。環境スペース株式会社は、防音工事・音響建築の設計施工を手がける専門企業で、東京都知事許可の建設業許可に加えて、東京都計量検定所登録の計量証明事業──つまり音圧レベルの公的な測定証明ができる資格を持っている会社です。ここで実務を担当しながら、設計部門や技術部門と連携して、遮音性能の測定実務やお客様との折衝を経験しました。
加藤:
現場で、具体的にどんな「後悔」を見てきたんですか。
渡辺:
一番多いパターンは、「安さで選んで失敗する」ケースです。たとえばピアノ室を作りたい方が、3社から見積もりを取ったとします。A社80万円、B社180万円、C社250万円。多くの方はA社を選びたくなりますよね。でも工事が終わってみると、隣の部屋にピアノの音がしっかり聞こえる。夜は弾けない。「話が違う」とクレームになる。
加藤:
それは業者が嘘をついたわけじゃない?
渡辺:
嘘をついているケースもゼロではないですが、多くの場合は「工法が違う」んです。A社はユニット式──いわば「部屋の中に箱を置く」タイプの簡易的な防音で、Dr-25〜30程度。B社はオーダーメイドで壁・床・天井を個別に設計するタイプでDr-35〜40。C社はさらにプロ仕様の浮き床構造も含めたDr-50以上の本格施工。そもそも「何をやるか」が違うのに、消費者はそれがわからないまま「価格」だけで比較してしまう。テントとマンションを比べて「なんでこんなに値段が違うんだ」と言っているようなものです。
加藤:
その「Dr値」という指標が一般に知られていないことが、根本的な問題なんですね。
渡辺:
まさにそうです。Dr値というのは遮音等級のことで、数字が大きいほど音を遮る能力が高い。でもこのDr値を見積もり段階で明確に提示してくれる業者は限られていますし、消費者もDr値の意味がわからないから聞かない。結果として「安い=お得」という短絡的な判断をして、あとから後悔する。この悪循環を何とか断ち切りたいと思って、僕は発信活動を始めたんです。
加藤:
逆のパターンもありますか? つまり、必要以上に高い工事を勧められて、オーバースペックになるケース。
渡辺:
あります。たとえば、趣味でたまにアコースティックギターを弾く程度なのに、プロ仕様のDr-50以上の施工を提案されるケース。もちろん遮音性能は高いほうがいいに決まっていますが、用途に対してオーバースペックであれば、それは「不要な費用」です。ギターの生音なら、Bタイプのオーダーメイドで十分な場合が多い。それだけで100万円以上の差が出ることもある。
加藤:
「安すぎる」のも「高すぎる」のも、結局は情報不足が原因なんだ。
渡辺:
そういうことです。だからこそ、消費者が「自分に必要な遮音性能」と「それを実現する工法と妥当な価格帯」を知ることが出発点になる。それが『音の間取り』の執筆にもつながったわけです。
渡辺:
はい。本を書いたのは、Webだけでは届かない層にもリーチしたかったからです。特にこれから家を建てる方、リフォームを考えている方に、「防音って実は物理の問題であって、正しい知識があれば後悔しない選択ができますよ」ということを伝えたかった。
第4章:防音工事の見積もりはなぜ「2倍」違うのか──価格差の正体
加藤:
ここからが今日の対談のメインテーマです。「防音工事の価格」。読者が一番知りたいのは結局、「いくらかかるのか」「なぜ業者によってこんなに見積もりが違うのか」ということだと思うんですよね。
渡辺:
はい。結論から言うと、見積もりが2倍、3倍と違う最大の理由は「工法の違い」です。業者のぼったくりでもなければ、安い業者の手抜きでもない──多くの場合は。当サイトでは、防音工事の工法を大きく3つのタイプに分類しています。
加藤:
A・B・Cタイプですね。サイトのトップページにある4コマ漫画でも紹介しています。
渡辺:
そうです。まずAタイプ(ユニット式)。これは50万〜150万円程度の価格帯で、既製品の防音ボックスを部屋の中に設置するイメージです。組み立て式なので工期が短く、賃貸でも設置できるケースがある。遮音性能はDr-25〜30程度。日常の練習音を「少し軽減する」レベルです。
加藤:
テントに例えるなら、これは「高機能テント」くらいの位置づけだと。
渡辺:
まさにそうです。外の環境から完全に遮断するものではなく、ある程度の機能を低コストで得るためのもの。次にBタイプ(オーダーメイド)。200万〜400万円程度の価格帯で、部屋の壁・床・天井をそれぞれ個別に設計して防音施工する。遮音性能はDr-35〜45程度。ピアノやギターなど、集合住宅で夜間にも演奏したいというニーズに対応できるレベルです。
加藤:
これが「注文住宅」に相当する。
渡辺:
そうですね。そしてCタイプ(プロ仕様)。500万円以上、場合によっては1,000万円を超える。浮き床構造やボックス・イン・ボックス工法など、建物の躯体から完全に独立した防音室を構築する。遮音性能はDr-50以上。プロのレコーディングスタジオやドラム室、ホームシアターの本格仕様がこれに該当します。
加藤:
つまり、A社の80万円とC社の250万円は、そもそもまったく別の商品なんだけど、消費者にはその違いが見えない。
渡辺:
その通りです。自動車でたとえるなら、軽自動車とSUVとスポーツカーの見積もりを並べて「なんでこんなに違うんだ」と言っているようなもの。でも車の場合は、誰でも「軽自動車とSUVは違う」とわかりますよね。防音工事の場合はその区別がつかない。なぜなら見積書には「防音工事一式」としか書かれていないことが多いから。
加藤:
「防音工事一式」──これは怖いですね。
渡辺:
怖いです。でも業者を責めるだけでは解決しない。消費者自身が「自分に必要な遮音性能は何dBなのか」「それを実現する工法はどのタイプなのか」を理解した上で見積もりを比較しないと、「安かろう悪かろう」か「高いものを買わされた」のどちらかになる。このサイトの存在意義はそこにあります。発注者が「構造と基準」を理解するためのツールを提供すること。
加藤:
だからこのサイトのサブタイトルが「相場・内訳・工法別・用途別の目安」なんですね。単なる「おすすめランキング」じゃない。
渡辺:
はい。ランキングサイトは世の中にたくさんありますが、「なぜその価格なのか」を物理的な根拠から説明しているサイトは、僕の知る限りほとんどない。だから作ったんです。
第5章:業界が価格を隠す構造的理由──人材業界との共通点
加藤:
ここは僕も非常に思うところがあるんですが、防音工事の業者さんって、Webサイトで価格を出していないところが多いですよね。「まずはお問い合わせください」「無料見積もりはこちら」で止まっている。
渡辺:
多いですね。理由はいくつかあります。まず、防音工事は完全なカスタムメイドであること。部屋の広さ、建物の構造(木造かRC造か)、求める遮音性能、用途──ピアノなのかドラムなのか映画鑑賞なのか──によって価格が大きく変わる。だから「一律○○万円」とは言いにくい事情がある。
加藤:
それは理解できます。でも「だから価格を出さない」というのは、消費者にとってはフェアじゃない。
渡辺:
そうなんです。もう一つの理由は、競合対策です。価格を公開すると、競合他社に価格戦略を読まれる。「あの会社がこの値段なら、うちはもう少し下げよう」という消耗戦が始まることを嫌がる。あとは、価格を出さないことで「まず問い合わせてもらう」という営業プロセスに乗せたいという意図もあります。問い合わせてくれれば接点ができるから、そこからクロージングに持っていける。
加藤:
これ、人材業界とまったく同じ構造なんですよ。人材紹介会社の手数料率──通常は想定年収の30〜35%ですが──を公開している会社は少ない。求職者には「無料でサポートします」と言いながら、実際には企業から高額な手数料を受け取っている。その構造自体は違法ではないけれど、情報を隠すことで交渉力を維持しているという点で、消費者を対等な立場に置いていない。
渡辺:
情報を握っている側が優位に立てる。古典的な「情報の非対称性」の問題ですね。
加藤:
そう。だから僕はSkyworkでも、VANGURD TALENT PARTNERSでも、情報を可能な限りオープンにするという方針で事業をやっています。soundproof-cost.comも同じ思想で作った。「隠されている情報を整理して公開すること」が、消費者の意思決定の質を上げる。業者にとっても、情報を持った消費者が増えることで、「価格の安さ」ではなく「技術の質」で評価される健全な市場になる。Win-Winのはずなんです。
渡辺:
おっしゃる通りです。実際、当サイトの9社比較記事を公開してから、読者の方から「見積もりの読み方がわかった」「Dr値を基準に比較できるようになった」という声をいただいています。それは、業者側にとっても良い変化だと思うんです。「なぜうちの工事はこの価格なのか」を正当に説明できる業者が、ちゃんと評価される市場になるわけですから。
加藤:
「安さ」で選ばれる競争じゃなくて、「価値」で選ばれる競争になる。それが健全な市場。
渡辺:
まさにそうです。このサイトの存在が、業界全体の底上げにつながってほしいと本気で思っています。
① この工事の遮音等級(Dr値)はいくつですか?
② 工法はユニット式ですか、オーダーメイドですか?
③ 換気経路の防音処理は見積もりに含まれていますか?
④ 施工後に遮音性能の測定(竣工測定)は行いますか?
⑤ 保証期間と、万が一性能が出なかった場合の対応はどうなりますか?
「この5つを聞くだけで、業者の対応が明らかに変わります。真摯な業者は丁寧に答えてくれますし、曖昧にしか答えられない業者には警戒したほうがいい」(渡辺)
第6章:「質量則」と「気密」──物理法則は嘘をつかない
加藤:
このサイトのトップページに、すごく印象的なコピーがありますよね。「見積もりの差は、『現状』の物理測定から生まれる」。そして「価格の根拠は、見えない『隙間』の処理にある」。この言葉の意味を、もう少し噛み砕いて教えてもらえますか。
渡辺:
音を止めるために必要な物理的原則は、突き詰めると2つしかありません。「質量」と「気密」です。
加藤:
質量──つまり重さですか。
渡辺:
そうです。これは「質量則」と呼ばれるもので、壁が重ければ重いほど音を通しにくいという物理法則です。たとえばコンクリートの壁と、石膏ボード1枚の壁とでは、音を遮る力がまったく違う。これは直感的にもわかりますよね。防音工事の費用の大部分は、この「重い材料を使う」ことに充てられています。遮音性能を上げたければ、より重い材料を、より厚く使う必要がある。だから物理的に価格が上がるんです。
加藤:
シンプルだけど、逃れようがない法則ですね。
渡辺:
もう一つが「気密」。音はわずかな隙間からも漏れます。どんなに重い壁を作っても、ドアの隙間が1mmでも空いていたら、そこから音が漏れる。コンセントの穴、換気口、配管の貫通部──こうした「見えない隙間」を一つ残らず塞ぐ施工が必要で、これは職人の手間です。材料費ではなく人件費に直結する部分。だから「価格の根拠は見えない隙間の処理にある」と書いたんです。
加藤:
なるほど。つまり防音工事の価格は「材料の重さ(質量)+隙間を塞ぐ手間(気密)」で説明がつくと。
渡辺:
もちろん設計費や管理費、測定費なども含まれますが、本質的にはその通りです。魔法のような新素材で安く防音できるとか、特殊な塗料を塗れば音が消えるとか──そういう「魔法」は存在しないんです。物理法則は嘘をつかない。
加藤:
第1章の話に戻りますけど、これはまさに明治ラグビーの「前へ」の精神ですね。トリッキーなことをしても、スクラムではごまかせない。愚直に重いフォワードを前に出すしかない。
渡辺:
(笑)。その例え、気に入りました。防音工事における「フォワード」は材料の質量であり、「スクラム」は気密の施工精度。まさにごまかしがきかない。だからこそ、消費者の方には「100万円でピアノ室を作りたい」と言われたとき、正直にお伝えする必要がある。「100万円では物理的にDr-40以上の遮音性能は実現できません」と。
加藤:
それをはっきり言えるのが、このサイトの強みだと思います。特定の業者に忖度する必要がないから。
渡辺:
はい。僕らは防音工事を売っているわけではなく、「判断するための情報」を整理して提供しているだけです。だからこそ物理的な事実をまっすぐ伝えられる。これはこのサイトの編集方針の根幹にある思想です。
第7章:9社比較記事と『音の間取り』──情報のエコシステムをどう作ったか
加藤:
このサイトの柱の一つが、主要9社の価格・特徴・技術力を比較した記事ですよね。あの記事は相当な労力をかけて作ったと思いますが、編集にあたって一番苦労したのはどこでしたか。
渡辺:
「特定の企業を推さない」ことのバランスです。比較記事って、どうしてもランキング的な「ここがおすすめ!」という結論を書きたくなるし、読者もそれを期待している部分がある。でも僕らのスタンスは違う。読者自身が判断するための「構造と基準」を提供することが目的であって、「この会社に頼めば間違いない」と断言することではない。
加藤:
その姿勢は、メディアとしてはハードルが高いですよね。「ランキング1位はここ!」と書いたほうがクリックは稼げる。
渡辺:
確かにそうです。でも防音工事は人生で何度もやるものではないし、金額も大きい。住宅のリフォームに匹敵する規模の投資です。そんな重大な意思決定を、ネット上の「おすすめランキング」だけで決めてほしくない。読者にはまず工法の違いとDr値の意味を理解してもらって、そのうえで自分の目的と予算に合った業者を選んでほしい。9社比較記事はそのためのツールです。
加藤:
技術監修に環境スペースの名前が入っていますが、これはどういう位置づけなんですか。
渡辺:
記事の情報の正確性と専門性を担保するために、技術監修および取材協力をお願いしています。環境スペースは建設業許可に加えて、計量証明事業の登録を持っている。つまり、音圧レベルの測定結果を公的に証明できる立場にある会社です。この資格を持っている防音工事会社は少ないので、技術的な裏付けとしての信頼性は高い。
加藤:
ただ、監修に入っている以上、環境スペースに有利な記事になるんじゃないかという疑問を持つ読者もいるのでは。
渡辺:
当然の疑問だと思います。だからこそ、9社比較記事では環境スペースも含めた全社を同じ基準──工法タイプ、対応可能なDr値、施工実績、価格帯──で並列に比較しています。環境スペースだけを特別扱いすることは一切ない。技術監修の役割は「記事に書かれている物理的・技術的な記述に誤りがないか」をチェックしてもらうことであって、編集方針や評価に介入するものではありません。
加藤:
そういう透明性の担保は大事ですね。さて、渡辺さんが書いた『音の間取り』はWebサイトとどう棲み分けているんですか。
渡辺:
サイトは「比較ツール」、書籍は「判断軸と思想」。そう位置づけています。サイトでは「A社は○○円でこの工法」「B社はこの性能でこの価格帯」という具体的な比較情報を提供する。一方、書籍『音の間取り』では、そもそも「防音とは何か」「なぜ音は伝わるのか」「自分の家でどう考えるべきか」という、より根本的な考え方──判断の軸──を伝えている。
加藤:
メディア運営の観点から言うと、Webと書籍の両輪で「情報のエコシステム」を作っているわけですね。サイトで具体的な比較データを提供し、書籍で考え方の基盤を固める。読者はどちらから入ってもいいし、両方読めばより深い理解が得られる。これはメディア戦略としてすごく合理的だと思います。
渡辺:
ありがとうございます。正直、本を書くのは想像以上に大変でしたが(笑)、書いてよかったと思っています。Webの記事だとどうしても「検索で流入して、その記事だけ読んで離脱する」という読み方が多い。でも本は、最初から最後まで一つのストーリーとして読んでもらえる。防音の本質的な考え方を伝えるには、やはり書籍というフォーマットが適していた。
第8章:2026年、防音工事業界のこれから──人手不足・建材高騰・AIの可能性
加藤:
さて、少し視野を広げて、2026年の防音工事業界をどう見ているか、お互いの視点で話してみましょう。僕からまず言うと、建設・建築業界全体が「2024年問題」の延長線上で、深刻な人手不足に直面しています。2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用されて、単純に「長時間働いて回す」ことができなくなった。
渡辺:
防音工事も例外ではないですね。特に気密施工は熟練の職人の技術に依存する部分が大きいので、人手不足の影響は深刻です。
加藤:
大村知事との面会でも話題になったんですが、2026年のアジア競技大会に向けて、愛知県を中心に建設需要が高まる一方で、建設現場で働く人材が足りない。宿泊・サービス業だけでなく、建設業でも特定技能外国人の活用が進む可能性がある。そうなると、防音工事の現場にも外国人材が入ってくるかもしれない。技術継承のあり方も変わるでしょう。
渡辺:
加えて、建材価格の高騰も見逃せません。遮音に使う石膏ボードや遮音シート、グラスウールといった材料は、ここ数年で軒並み値上がりしています。物流コストも上がっている。当然、工事の見積もり価格にも反映されます。「2023年に300万円だった工事が、2026年には350万円になった」ということは普通に起こり得ます。
加藤:
だからこそ、このサイトで最新の価格情報をアップデートし続けることが重要なんですね。
渡辺:
はい。価格の相場は変動するものなので、記事を書いて終わりではなく、定期的に情報を更新していく必要がある。これは運営としては地味な作業ですが、読者にとっては非常に重要です。
加藤:
もう一つ、AIの活用についてはどう考えていますか。
渡辺:
興味深いテーマですね。現時点では、AIが防音工事の設計・施工を代替することはできません。現場ごとに条件が違いすぎるし、気密施工は物理的な手作業ですから。ただし、「簡易見積もりシミュレーション」の精度を上げるという方向では、AIの活用余地はあると思います。たとえば、部屋の広さ・建物構造・用途を入力すると、工法タイプと概算価格帯を自動で提案してくれるようなツール。
加藤:
それは面白いですね。消費者が「自分にはどのタイプの工事が必要か」をセルフチェックできるツールがあれば、見積もりを取る前の段階で判断軸ができる。
渡辺:
そうです。もちろん最終的な見積もりは現場調査を経ないと出せませんが、「自分はBタイプの工事が必要で、予算は200万〜300万円を想定すべきだ」という目安がわかるだけでも、業者との交渉がまったく変わってきます。
加藤:
そういうツールの開発は、このサイトの将来的な構想に入っている?
渡辺:
構想としてはあります。ただ、精度の低いシミュレーターを出してしまうと逆に混乱を招くので、慎重に進めたいと思っています。物理法則に基づいた正確なロジックを組み込まないと、かえって「AIがこう言ったから」という新たな誤解を生む可能性がありますから。
加藤:
その慎重さが、渡辺さんらしいですね。正確性を犠牲にしてスピードを優先しない。
渡辺:
防音工事は失敗したら「やり直し」が非常に難しい。壁を壊してもう一度施工するとなると、追加で何百万もかかります。だから「最初の判断」を間違えないことが何より大事。僕らが提供する情報も、正確性だけは絶対に妥協できない。
加藤:
もう一つ、僕が注目しているのは中古住宅のリフォーム需要の伸びです。新築の価格がどんどん上がっている中で、中古住宅を買ってリフォームするという選択をする人が増えている。その際に「せっかくリフォームするなら防音もやりたい」というニーズが出てくる。
渡辺:
そのパターンは最近確かに増えていますね。特にマンションのリフォームと防音工事を同時に行うケース。ただ、これにも落とし穴があって、一般のリフォーム会社が「防音もできますよ」と言って引き受けるんですが、防音工事の専門的な知識がないまま施工してしまうことがある。見た目はきれいに仕上がるんだけど、遮音性能が全然出ていない。
加藤:
「リフォームのついでに防音」は危険なんですね。
渡辺:
防音は「内装工事の延長」ではないんです。音の伝わり方を物理的に理解した上で設計しないと、どんなに高い建材を使っても意味がない。壁を厚くしても、コンセントの穴が一つ空いていたらそこから音が漏れますから。こういった専門的な注意点も、このサイトで今後しっかり発信していきたいテーマの一つです。
加藤:
テレワークの普及もありますよね。コロナ以降、自宅で仕事をする人が定着して、「Web会議の声が隣の部屋に漏れる」「家族がいる中で集中できない」という悩みから防音を検討する人が増えた。これは以前にはなかった需要です。
渡辺:
おっしゃる通りです。テレワーク用途の防音は、実はピアノ室やドラム室ほどの高い遮音性能は必要ない場合が多い。Dr-25〜30程度、つまりAタイプのユニット式でも十分なケースがある。ところがこの情報を知らないまま、高額なオーダーメイドの見積もりを出されて「やっぱり防音は高いから諦めよう」と思ってしまう人がいる。もったいないんですよ。
加藤:
用途に合った工法とコストを知っていれば、「諦める」のではなく「賢く選ぶ」ことができると。これは今後ますます重要なテーマですね。
第9章:読者へのメッセージ──「このサイトを盾にしてほしい」
加藤:
最後に、このサイトの読者に向けて、それぞれメッセージをお願いします。渡辺さんから。
渡辺:
防音工事を検討されている方に、まずお伝えしたいのは「自分の部屋の現状を数字で知ってください」ということです。難しく考える必要はありません。スマートフォンの騒音計アプリでいいので、普段の生活音が何dBなのか、自分が出す音──ピアノやギター、ホームシアターの音量──が何dBなのかを測ってみてください。
加藤:
それだけでいいんですか。
渡辺:
もちろん厳密な測定は専門の計測器が必要ですが、スマホアプリでも「だいたいの目安」は掴めます。そのうえで、「自分には何dBの遮音性能が必要か」を把握する。すると、見積もりの「読み方」が劇的に変わります。「この会社のこの工事はDr-30だから、自分のニーズには足りないな」「こっちはDr-45で、しっかりしたオーダーメイドだからこの価格は妥当だ」──そういう判断ができるようになる。
加藤:
見積もりを「読む力」を身につけるということですね。
渡辺:
そうです。そして、その力を身につけるためのツールとして、このサイトと『音の間取り』を使っていただきたい。見積もりを取る「前」に読んでほしいんです。業者さんから見積もりが来た「後」に読んでも役立ちますが、事前に読んでおくと、そもそも「何を聞けばいいか」がわかるようになる。「Dr値を教えてください」「この見積もりの内訳を工法別に見せてください」──そういう質問ができるだけで、交渉の質がまったく変わります。
加藤:
僕からは一言。このサイトを「盾」にしてほしいということです。
渡辺:
盾。
加藤:
情報を持っている消費者は強い。これは人材業界でも建設業界でも同じです。業者さんとの打ち合わせのときに、このサイトの記事を読んだ上で臨む。「防音工事の価格にはこういう構造があるんですよね」「Dr値で比較したいんですけど」と言えるだけで、業者さん側の対応も変わる。なぜなら、「この人はわかっている」と伝わるからです。
渡辺:
それは本当にそうですね。僕が現場にいたときも、知識を持ったお客様には自然と丁寧な説明をしていましたし、工法の選択肢も幅広く提案していた。
加藤:
正しい情報を持つことが、消費者にとっての最大の武器であり盾。このサイトが、一人でも多くの方にとってそういう存在になれたら、作った甲斐があります。
渡辺:
最後に一つだけ付け加えさせてください。当サイトでは、防音工事に関するご質問やご相談も受け付けています。「こういうケースではどの工法が適切か」「この見積もりは妥当か」──そういったお問い合わせにも、特定の業者を推すことなく、中立的な立場からお答えしています。一人で悩まず、ぜひ活用してください。
加藤:
渡辺さん、今日はありがとうございました。ラグビーの話から防音工事の物理学まで、本当に縦横無尽でしたね(笑)。
渡辺:
こちらこそありがとうございました。明治ラグビーの「前へ」の精神で、このサイトも愚直に前進し続けます。来シーズンも明治が優勝してくれるとモチベーションが上がるんですが(笑)。
加藤:
来シーズンは早稲田が取り返しますよ(笑)。でもまぁ、大学ラグビーは早明がいいライバルでいるからこそ盛り上がる。このサイトも、業界にとっての良い「ライバル」──いや、「良心」でありたいですね。
渡辺:
「良心」──いい言葉ですね。消費者の側に立って、物理的な事実だけを語る。派手じゃないけれど、そこにこそ価値がある。
加藤:
では読者の皆さん、ぜひ防音工事の検討前に当サイトの記事を読んで、「後悔しない選択」をしてください。そして見積もりを取ったら、Dr値と工法タイプを確認すること。これだけで、皆さんの判断力は確実に変わります。
渡辺:
わからないことがあれば、遠慮なくお問い合わせください。特定の業者を推すことなく、中立的にお答えします。本日はありがとうございました。
収録日:2026年2月 東京・虎ノ門ヒルズステーションタワーにて

